しかし、その美しい海は静かに、そして確実に汚されていった。
工場から流された有機水銀。
それは魚介類を通じて人々の体内に蓄積され、やがて悲劇は始まった。
手足の感覚がマヒし、言葉を失い、痙攣に苦しむ患者たち。
生まれてくる赤ん坊までもが犠牲となった。
しかし、企業は責任を認めず、行政は対応を遅らせた。
患者たちは差別され、地域は分断。
長い闘いの日々が続いた。
石牟礼道子は、その苦しみの中にある人々の魂の叫びを、美しくも痛ましい言葉で紡ぎ出した。
それは単なる記録ではなく、人間の尊厳を問う魂の叙事詩となった。
「苦海浄土」は、我々に問いかける。
経済発展の裏で失われたものは何か。
人間らしく生きるとはどういうことか。
そして、二度とこのような悲劇を繰り返さないために、我々は何ができるのか。
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