2024年7月20日土曜日

重松 清「疾走 上」 (角川文庫)





 

静寂に包まれた干拓地。

水平線の彼方に希望を見出そうとするシュウジ。彼の心臓の鼓動が、この町の静寂を打ち破る。

 平穏を装う家族の仮面の下で、シュウジの魂は悲鳴を上げていた。

天才と呼ばれた兄の狂気。

父の冷たい沈黙。

母の震える背中。

そして、「沖」と「浜」。二つに引き裂かれた町の確執が、シュウジの心を締め付ける。 

突如として町を襲う巨大開発の嵐。

欲望と打算が渦巻く中、兄が犯した忌まわしい罪。その瞬間、シュウジの世界は粉々に砕け散る。 

孤独という名の深淵。祈りは届かず、暴力が支配する。

純潔な魂が汚され、死の影がちらつく。

それでも、シュウジは走り続ける。誰かとつながりたい。その一心で、地獄の道を疾駆する。 彼の足音が響く。それは現代社会の闇への挑戦状。 

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