2024年6月30日日曜日

ジェフリー・アーチャー「ケインとアベル 上下」(新潮文庫)




 運命に翻弄された二人の男の物語――。 

 1906年、世界の両端で生まれた二人の赤ん坊。 

一方はポーランドの極貧の猟師に引き取られた私生児ヴワデク、もう一方はボストンの名門ケイン家の裕福な子。 

 その人生は、あまりにも対照的だった。 

 戦火に追われ故郷を失ったヴワデクは、無一文の移民としてアメリカに辿り着く。後にアベルと改名し、全米に拡がるホテル・チェーンを築き、不屈の精神で這い上がる。 

 一方、恵まれた環境で育ったケインは、その才覚を活かし、華々しい成功を収め大銀行頭取となる。 

 二人の運命が交錯するとき、 20世紀アメリカの激動の歴史が蘇る。 

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[編集秘話]

読み上げ読書の原点 その1

実はこれ、中学校の時の保健の時間に先生が読み上げてくれた作品。毎回、これを読み上げるだけという、ぶっ飛んだ授業だった。

さらにぶっ飛んでいたのは、その先生の格好。五十代ぐらいのおばちゃんだった。白衣に、なぜかロンドンブーツ。ごっつい顔立ちで、インデ○アンのようだと誰かが言い、「インデ○アン・ババア」と呼ばれていた。

投稿動画100本を目前に、読み上げ読書の原点ということでこの作品を取り上げた。


ありがとう、インデ○アン・ババア先生。



2024年6月29日土曜日

伊東潤「走狗」(中公文庫)




幕末から明治へ。激動の時代を駆け抜けた男がいた。その名は川路利良。 

下級武士から日本警察の父へ。彼の波乱の人生を描く『走狗』。 

西郷隆盛、大久保利通。薩摩の英雄たちに仕えながら、川路は闇の中で暗躍する。

国のために、時に友を裏切り、時に敵を討つ。

 鳥羽伏見の戦い、江戸城無血開城、西南戦争...歴史の転換点に彼はいた。

 純粋な志は、やがて野心に蝕まれていく。権力の魔力が、川路の心を変えていく。 

しかし、彼の行動のすべては日本のため。

近代警察制度を創り上げ、新しい国家の礎を築いた男の物語。

 歴史の闇に光を当てる、知られざる明治維新の真実。 

2024年6月28日金曜日

ハワード L.ローゼンバーグ「アトミックソルジャー」(社会思想社)



 

核爆発のキノコ雲の下で、何の防護もなく立つ兵士たちがいた。 これは驚愕のドキュメンタリー。

 1950年代、冷戦の緊張が高まる中、アメリカは自国の兵士たちを人体実験の被験者として利用した。

彼らは「アトミック・ソルジャーズ」と呼ばれ、核実験場のごく近くに配置された。 防護服もなく、ただ目を手で覆い、背を向けるだけ。閃光、衝撃波、そして目に見えない放射線が彼らを襲う。 

 数十年後、多くの兵士たちが放射線障害に苦しんだ。しかし、政府からの補償はなかった。 

 今なお続く核の脅威、そして政府の情報操作。 

人は過ちを繰り返す。 

過去から何を学び、未来に何を伝えるべきかを問う。

2024年6月27日木曜日

吉村昭「蚤と爆弾」 (文春文庫)



 

戦争の暗部に潜む、人類の良心を揺るがす衝撃の事実。

 第二次世界大戦末期の関東軍による細菌兵器開発を題材にした、戦争の闇を鋭く描いた衝撃の長編小説。 

ハルピン近郊の秘密施設。

そこでは、無数の蚤や鼠が飼育され、ペスト菌やチフス菌、コレラ菌が培養されていた。

さらに恐ろしいことに、捕虜を使った人体実験まで行われていた。 

作者は冷徹な筆致で、この非人道的な兵器開発に携わった科学者たちの姿を描き出す。

彼らの知性と狂気、そして人間性の葛藤が、読者の心を揺さぶる。 戦争の本質とは何か。人間の良心とは。科学の進歩と倫理の境界線は。 

2024年6月26日水曜日

吉村 昭「新装版 関東大震災」 (文春文庫)



 

1923年9月1日、関東を襲った未曾有の大震災。 

 瞬く間に都市は地獄絵図と化した。 地鳴りとともに揺れる大地。

崩れ落ちる建物。そして、街を飲み込む火災旋風。 

逃げ惑う人々の悲鳴が響き渡る中、20万もの命が一瞬にして奪われた。 

 しかし、自然の猛威はそれだけではなかった。

人々の恐怖と混乱が、さらなる悲劇を生み出す。 根拠のない噂が飛び交い、自警団による無辜の人々への暴力へと発展。人間の闇の一面が露わになった。 

 自然災害から身を守るだけでなく、いかにして人としての理性と思いやりを失わないか。

 この大災害を通して、「災害に強い都市づくり」の重要性を再認識させる。

2024年6月25日火曜日

有吉佐和子『恍惚の人』(新潮文庫)




「老いとは何か?」この根源的な問いに真摯に向き合った衝撃作。 
認知症の義父を介護する嫁・昭子の日々を通じ、高齢化社会の厳しい現実を鮮明に描き出す。

真夜中に叫ぶ老人、献身的に世話をする家族。その光景は読者の心を深く揺さぶる。 

しかし、この物語は単なる悲哀の連続ではない。

老人の愛おしさ、介護する側の強さと優しさ。人間の尊厳と家族愛の深さが胸に迫る。 

40年以上前の作品でありながら、さらに進んだ超高齢社会の現在にも通じる普遍性を持つ。

老いゆく親、そして避けられない自身の未来。この小説は、私たちに何を問いかけるのか。

2024年6月24日月曜日

半藤一利「日本のいちばん長い日(決定版) 運命の八月十五日」(文藝春秋)



 

終戦前夜に起こった「宮城事件」をテーマにしたノンフィクション小説. 

 1945年8月15日、日本の運命を決めた一日。 太平洋戦争終結へ向けた激動の24時間を描く。 

鈴木貫太郎首相ら和平派と、徹底抗戦を叫ぶ青年将校たち。 

玉音放送実現のため奔走する政府関係者と、それを阻止しようと皇居に乱入した近衛連隊の一部軍人たち。 

対照的な動きが交錯する中、日本の運命は刻一刻と動いていく。 

天皇の「聖断」、近衛連隊の反乱、そして運命の正午。

あの日、日本人は何を思い、何を選んだのか。 日本の過去と未来を見つめ直す、永遠の名著。 

2024年6月23日日曜日

清水 一行「毒煙都市」 (角川文庫)



 

昭和12年、西九州の工業都市M市を襲った悲劇。

染料工場の爆発事故から始まった、この町の悪夢。

 黄色い煙が街を覆い、やがて市民たちを次々と蝕んでいく未知の病。子供たちの無垢な笑顔が、痛ましい悲鳴に変わっていく...。 

当局は「赤痢」と断定し、幕引きを図ろうとする。

しかし、真実を追い求める一人の男がいた。水道課長の中西。彼の孤独な闘いが始まる。

 権力vs正義、隠蔽vs真実。昭和の闇に葬られかけた悲劇が、今、明かされる。 

実話をモデルにした衝撃の社会派小説。 爆発事故から始まる町の悲劇、そして一人の男の闘い。昭和の闇に隠された真実とは...?

2024年6月22日土曜日

井上 靖「新装版 おろしや国酔夢譚」 (文春文庫)











 

絶望の淵に立たされた男が見たのは、想像を絶する“禁断の異世界”だった!

嵐に翻弄され、たどり着いたのは極寒のシベリア。 

天明二年(1782)の暮、伊勢を出帆した神昌丸は強風によりアリューシャン列島に漂着。

そこから始まる光太夫と仲間たちの苦難の旅が始まる。彼らはシベリアを横断し、モスクワ、そしてぺテルブルグを経て、ついにロシア女帝エカチェリーナ二世の前に立つことに成功する。

帰国までの十年に及ぶ過酷な生活と壮絶な試練は、光太夫のリーダーシップを開花させた。 しかし、故国に戻った彼らを待ち受けていたのは幕府からの終身幽閉という冷酷な運命だった。

鎖国の時代に、世界を見た漂民たちの運命に翻弄される姿を描く。

2024年6月21日金曜日

[北康利]白洲次郎 占領を背負った男 上下(講談社文庫)



 

GHQ相手に堂々と渡り合い、「従順ならざる唯一の日本人」と評された不世出の紳士、白洲次郎の生涯を描く。

 生粋の上流階級出身ながら英国の地で学び、戦後の日本を背負い憲法制定に深く関わった。

しかし決して自らを前面に出すことはなかった。その静かなる影響力は、日本の経済的独立を目指し、通商産業省創設に導いた。

そして、全てを成し遂げた後も、彼は紳士としての態度を崩さず、エッセイスト白洲正子と共に、静かな生活を送った。 

己のプリンシプル(principle 原理、原則)を貫き通した生き様は、紳士の中の紳士として時代を超えて語り継がれる。

2024年6月20日木曜日

ベン・マッキンタイアー「ナチを欺いた死体-英国の奇策・ミンスミート作戦の真実」 (中公文庫)



 

一介の死体が、戦局を動かした。 
1943年、第二次世界大戦最中の地中海を舞台に、戦況を決定的に動かした驚愕の作戦が行われた。

 ある朝、スペインの漁師ホセが海上で発見したのは、人間の死体だった。

しかし、この死体こそが、ナチス・ドイツを欺く芝居の主役だったのだ。 

イギリス軍最高司令部は、この死体に架空の軍人"マーティン少佐"の設定を施し、偽りの機密文書を所持させて海に流した。この死体がナチス側に拾われ、文書の情報を本物だと思い込んでもらうことが作戦の狙いだった。 

果たして、ナチスのスパイ機関はこの偽情報をごっそり飲み込んでしまう。

文書の内容は、連合軍がギリシア方面から攻めてくるというものだった。

しかし実際の作戦目標は、シチリア上陸作戦だった。 

この驚異の欺瞞作戦により、ナチス軍はギリシア方面に戦力を振り向け、シチリア島の防備を怠ってしまった。これが連合軍の勝利につながったのである。 

この実話は、想像を絶する諜報戦の裏側を明かす。



映画化作品 オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-(字幕版)amazon primevideo

2024年6月19日水曜日

有吉 佐和子「華岡青洲の妻」 (新潮文庫)



 

江戸時代に全身麻酔手術に挑んだ天才外科医とその妻の壮絶な物語。
麻酔剤「通仙散」を完成させるため、母と妻が自らを人体実験に捧げた。 

江戸時代後期、紀州の村で起きた壮絶な愛の争い。
医者の業績の陰に隠れた、青洲の愛を争う嫁と姑の熾烈な対立があった。 

息子の全身麻酔手術の成功を願い、 美しい母は自らを人体実験に捧げた。 

一方、武家出身の妻は夫の名声を守るため、 姑との確執に身を投じていく。

美談の裏で渦巻く、女性たちの熾烈な愛の行方は?

 全身麻酔手術の祖、華岡青洲の波乱に満ちた人生と 封建社会の中で生きる女性たちの激しい葛藤と、家族との絆を描き出す。

2024年6月18日火曜日

D・H・ロレンス「チャタレー夫人の恋人 」(光文社古典新訳文庫)



 

愛の階級闘争。 愛する二人は、階級の壁に阻まれていた。 

上流階級の令夫人コニーは、戦争で下半身不随になった夫の世話に明け暮れる日々。

 一方、彼は屋敷の森番で訳ありの過去を持つ男、メラーズ。彼の目は、彼女の凍てついた心を溶かし、二人は禁断の愛に落ちていく。

 しかし、身分の違いは容易に越えられるものではない。周りの偏見と非難、愛し合うことさえ罪とされかねない。

それでも二人は激しく燃え上がる情熱を抑えられずにいた。 

 やがて、階級という枷を越え、愛を貫く決意をする。しかし、その先に待っているのは、更なる試練と苦悩だった。 

二人は本当の愛を手に入れられるのか? 
禁断の愛が、時代を超えて蘇る!

2024年6月17日月曜日

藤本 ひとみ「皇帝を惑わせた女たち」 (角川文庫)



 

皇帝ナポレオン。彼を取り巻く女性たちはただの傍観者ではなかった。

彼女たちは、愛と欲望の渦中で自らの運命を切り開いた。本書は、そんな女性たちの生きざまを描いた物語。

皇后ジョゼフィーヌやマリー・ルイーズ、そしてマリー·ヴァレフスカなど、彼女たちの愛と野望が織りなす歴史の側面が描かれる。 

 彼女たちの魅力や複雑な感情が、ナポレオンの人生にどのような影響を与えたのかが詳細に綴られており、フランス史の奥深さに触れることができる一冊。 

2024年6月16日日曜日

志村 真幸「未完の天才 南方熊楠」講談社現代新書



 『未完の天才 南方熊楠』 - 才能と謎に満ちた生涯

直木賞候補作 岩井圭也著「われは熊楠」の副読本としておすすめ。 

南方熊楠は、19世界紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した天才的な存在。植物学、動物学、民俗学、言語学など、多岐にわたる分野で卓越した業績を残した。

しかし、その半面で、研究や著作のほとんどが未完に終わっている 。

 なぜ熊楠は完成を嫌ったのでしょうか。
途中で次々と新しい関心事に移り、それを追求するうちに前の研究は放置されてしまったのだ。

そんな"好奇心の赴くままに"生きた熊楠の生き方には、常に新たな発見と気付きがあったのだった。 

 本書では、熊楠をめぐる13の謎を最新の研究から紐解きながら、この天才の生涯と、その"未完性"の理由に迫る。 

2024年6月15日土曜日

中山七里「作家刑事毒島」 (幻冬舎文庫)



 

新人賞の審査を巡る恐るべき殺人事件。

容疑者は3人の作家志望の若者たち。 

しかし、事件の謎を解くカギを握るのは、他でもない人気ミステリ作家兼刑事技能指導員の毒島真理(ぶすじま しんり)!

前代未聞の異色の刑事にして作家、毒島は鋭い洞察力と冷徹な言葉で事件の闇を暴いていく。 

出版社の欲望、新人作家の嫉妬、マニアックな読者の狂気。

業界の裏側に潜む人間の陰欝な部分が次々と明らかになる。 果たして真相は何か?そして毒島自身にも驚愕の展開が待っている――。 


過去にドラマ化されてます→

2024年6月14日金曜日

貴志 祐介「十三番目の人格 ISOLA 」(角川ホラー文庫)



 

舞台は阪神淡路大震災後の西宮。 
多重人格障害を持つ少女と、エンパス能力を持つカウンセラーが織りなす心理ホラー。

主人公の賀茂由香里は、人の強い感情を読み取る能力を活かし、震災の被災者たちの心のケアをしていた。

そんな中、病院で出会った森谷千尋という少女の中に、複数の人格が存在することを知る。由香里は、千尋の人格たちと交流を深めていくが、やがて十三番目の人格〈ISOLA〉の出現に直面し、恐怖を覚えるようになる。 

震災後のトラウマや多重人格障害という重いテーマを扱いながら、オカルト要素が加わることで一層の恐怖感を引き立てる。


人格と書いて、ペルソナ。

2024年6月13日木曜日

中山七里「嗤う淑女」(実業之日本社文庫)



 

破滅の連鎖は誰にも止められない。 

 美しくも冷酷な少女、美智留。幼い頃から虐待に遭い、歪んだ心を育てていった。 

 一方、いじめに耐え難い思いをした恭子は、従姉妹の美智留に救われる。

しかし、それは地獄の幕明けに過ぎなかった。

美貌と知性を武器に、美智留は人々を虜にしていく。金と名誉に酔い、性的衝動に遊ばれる男女。その手綱を操るのは、微笑を浮かべる淑女の姿をした化け物だった。 

一人を破滅に導けば、次の獲物を求める。美智留の孤独な魂は、血に飢えて満たされない。

やがて、最愛の人すら、その牙から逃れられない。 

2024年6月12日水曜日

渡辺淳一「項の貌」 (朝日文庫)



 

江戸時代の罪人の首斬り役として代々家柄を継いできた山田浅右衛門の物語。

彼は500人の首を刃こぼれせぬまま、一太刀で斬ったと伝えられている。

この一門に伝わる「項に貌あり」とは、彼が斬首の際に首の「ある位置」を見ていたことを指している。

処刑という非情な役割を与えられながらも、彼は自らの技術と哲学を磨き上げ、名人の領域に達した。 

 医師である著者の解剖学の知識と想像力を歴史小説に融合させた傑作短編小説。 

2024年6月11日火曜日

福澤 徹三「東京難民 上」光文社文庫



 

仮想転落人生 
東京難民と化した男の運命は、まるで絶望の渦に飲み込まれるように…。 

夏休み明けに学費未納で除籍を告げられ、実家では両親が借金を残して失踪し、貯金もほぼゼロ。アルバイトを転々としながらも、家賃滞納で住む場所を失い、追い詰められる修。

しかし、それで全てが終わったわけではなかった。

 貧困と孤独の底なしの闇が、修を呑み込もうとしていた。果たして彼は這い上がれるのか? 
絶望の中で光を見出せるのか?

2024年6月10日月曜日

アレクサンドル・ベリャーエフ 『ドウエル教授の首』(グーテンベルク21)




 

ロシアの巨匠が描く、戦慄のSFスリラー! 

医師マリー・ローランは高名な教授の助手として雇われた。しかし、研究室に足を踏み入れた瞬間、彼女が目にしたものは想像を絶する光景だった。

生きた人間の首が、機械に取り付けられていたのだ!しかも、それは名門外科医ドウエル教授の首であった。

まばたきをしながら、じっと彼女を見つめる首に、マリーは驚愕する。 

教授は、その首の世話を任じた。マリーはその不気味な首に触れ、生命を維持する役目を担うことになる。

しかし、徐々にその首の存在する理由、研究の目的が明らかになるにつれ、彼女は戦慄を覚えていく。 

人体実験の暗黒の世界が、リアリティを帯びて迫ってくる。

 ロシアを代表するSF作家ベリャーエフの代表作。 

2024年6月9日日曜日

安達正勝「死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男」(集英社新書)



 

フランス革命で国王ルイ16世を処刑した死刑執行人サンソン一家の実録。
シャルル=アンリ・サンソンはパリの死刑執行人を代々継ぐ一家に生まれた。

熱心なカトリック教徒でありながら、彼は死刑廃止論者でもあった。

革命の渦中、国王処刑を命じられた。 シャルルは代々の死刑執行人一家に生まれながら、熱心な死刑廃止論者でもあった。

死刑執行人の職務と個人の良心の間で、彼は深い葛藤を抱えていた。

ギロチン発明への関与や「人道的処刑」の模索にも及ぶ、驚くべき実話が続く。

 人道と職務の間での苦悩に迫る重要な記録であり、読了後は残酷な処刑制度を問い直す契機ともなるだろう。 

2024年6月8日土曜日

佐藤 賢一「 カポネ 下」(角川文庫)




アル・カポネとエリオット・ネスの確執を描いた物語。

 エリオット・ネスは、賄賂を受け入れない"アンタッチャブル"として知られる正義の人物。

 しかし、実態は酒浸りの自信家で、恋人を妊娠させながら責任を放棄しようとする保険調査員にすぎなかった。

そんな彼に運命の転機が訪れる。司法省禁酒局の特別捜査官に抜擢されたのだ。 

 一方のカポネは、時に義賊的な一面を見せつつも、圧倒的な存在感を放っていた。"聖ヴァレンタイン デー虐殺事件"でライバル組織を一掃し、勢力を無尽蔵に拡大していった。

 改造ショットガンを手にしたネスは、カポネの本拠地へと踏み込む。そして、酒に狂わされた2人の人生が、劇的に交錯していく。 

 栄光と失墜、愛と裏切り、人間の本質が渦巻く極限のドラマ。

2024年6月7日金曜日

森崎和江「からゆきさん 異国に売られた少女たち」(朝日文庫)






 

貧困のために身を売らざるを得なかった数多くの女性たちの切実な運命。

明治、大正、昭和を通じて、多くの少女が家族のため、わずか500円で外国の娼館に売られた。 

 戦争の影に隠れて忘れ去られようとしていた彼女たちの痛ましい経験を、丹念な取材と資料調査に基づいて描き出した 歴史の闇から女性の尊厳を取り戻そうとする強い訴えかけとなっている。

 例えば、16歳で朝鮮に売られ狂死したキミや、東南アジアで財を成し壮絶な自殺を遂げたヨシ。一人ひとりの女性の生々しい姿に触れる。

 戦争や貧困がもたらす惨状、格差社会が問題視される現在こそ読むべき本。





2024年6月6日木曜日

佐藤賢一「カポネ 上」 (角川文庫)



実在した暗黒の帝王の物語。

20世紀初頭、 ニューヨークの路地で始まったギャングへの道。見込まれた少年は、 組織の庇護のもと、数々の暴力沙汰を起こす。

禁酒法の時代にシカゴを舞台に 闇酒業で実力者へと上り詰めていく。

無慈悲な殺人の数々。ライバル一味への徹底的な抗争。マフィア一家への慈愛と冷酷な対立関係。

賄賂まみれの汚職体質が メディア、警察、政治家らを毒し、彼の掌中に。

絶頂を極めた若き帝王だったが、 やがて転落の運命が待っていた。

2024年6月5日水曜日

シュロモ・ヴェネツィア 「私はガス室の『特殊任務』をしていた 知られざるアウシュヴィッツの悪夢」 (河出文庫)



ある戦慄の「特殊任務」を強要されたユダヤ人の体験談。 

それはアウシュヴィッツ収容所のガス室で殺されたユダヤ人の同胞を、自らの手で焼却炉へと運び、清掃も行うという任務であった。 

 日々恐怖に怯えながら過ごすアウシュヴィッツでの生活や業務の実態が生々しく描かれている。 想像を絶する残虐行為に、彼らのもたらされた心的外傷は計り知れない。 

 著者は、この世の地獄を目に焼き付けた。後世に伝えるために勇気をもって証言した。

過ちを繰り返さないために。

2024年6月4日火曜日

雨穴「変な家」(飛鳥新社)



 

失踪した元住人たちの行方は? 

 一見、平凡な家に実は不気味な「謎の空間」が隠されていた。

設計士が知人の中古一軒家の間取り図を見て、そこに潜む"奇妙な違和感"に気づく。

実はこの設計士、推理小説マニア。トリックの詰まった建物の謎を解き明かしていく切り口は名探偵のように鮮やか。

間取り図の不可解な真相、消えた元住人の正体…全ての謎が解き明かされる。

2024年6月3日月曜日

林真理子「小説8050」(新潮文庫)



 

現代社会の深刻な問題に真っ向から切り込む衝撃のベストセラー。

7年間、部屋から出られない長男翔太。

このままでは我が子を手にかけるしかない...と絶望する歯科医の父・正樹。

一方で、弟のせいで結婚できないと泣く姉の由依。 

 家族はバラバラに引き裂かれていく。そんな中、父が知った息子の恐ろしい過去とは? 

 イジメ、不登校、家庭内暴力...現代社会に潜む闇を浮き彫りにした、痛ましくも温かい人間ドラマ。 

 80代の親が50代の子供を養う現代日本の家庭の苦悩と、その背後に潜む社会問題をリアルに描き出している。

2024年6月2日日曜日

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」(新潮文庫)



衆人環視の中で首相が爆殺。 

主人公は普通の青年だったが、ある日突然、首相暗殺犯に仕立て上げられ、全てが変わる。

無実なのに、巨大な陰謀に追い詰められる。何が起こっているのか?

逃げる男を待ち受けるのは暴力的な追手集団と、謎の人物たち。 辛く厳しい逃避行の中で、友情の絆が試される。

男は果たして生き残れるのか? 

 ビートルズのこのメロディと共に蘇る古い記憶が運命の鍵を握る。 

2024年6月1日土曜日

汐見夏衛「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」 (スターツ出版文庫)



初恋相手は特攻隊員でした。 

戦時中の日本へタイムスリップした中学生・百合。そこで出会ったのは、特攻隊員の彰だった。

 「私たちは、命を懸けて国を守ります」 彰の誠実な言葉に、百合は心を動かされる。

やがて二人は惹かれ合うが、彼の「運命」は決まっていた。 

平和な日々を過ごす百合とは裏腹に、彰は特攻により命を落とすことを覚悟していた。

 そして、ある日、百合は彰の本当の想いを知る―。 

愛と勇気に満ちた、胸を締め付ける物語。 戦争と平和の狭間で輝く、二人の絆の行方は?

 現代と戦時中の価値観の違いに悩みながらも成長する百合の姿は、歴史嫌いな若者でも共感できるはず。 

手塚 正己「海軍の男たち 士官と下士官兵の物語 」(PHP研究所)

著者はドキュメンタリー映画「軍艦武蔵」の制作を通じて旧海軍軍人との面談を重ねてきた。 本書は太平洋戦争中の日本海軍の生活を克明に記録し、軍の絶対的なヒエラルキーや過酷な訓練の実態を描く。 鉄拳制裁や精神注入棒などの暴力的な訓練方法や、それに耐えた元海軍軍人たちが「もう一度海軍...